[推理小説] 暗黒館の殺人 (上)
- 2011/09/30
![]() | 暗黒館の殺人 (上) (講談社ノベルス) (2004/09/10) 綾辻 行人 商品詳細を見る |
ついに綾辻行人の館シリーズの最終作へ。この本だけあまりにも分厚いため今までなんとなく回避してきたけどこれまでの他館シリーズは全作を読んできたのでこの締めくくりは読まなければならないだろうということでついにチャレンジ。
☆第一回更新 (p170 第二部 五章 記憶喪失と第一の死体発見まで)
<今回は犯人枠から除外できない?江南>
今回は江南の描写がなんとも怪しい。序盤から精神の袋小路に陥りやたら自分を見失っている場面が目立ちおまけに幻聴(か真実かはまだ分からないが)まで聴いて館に引寄せられていてこのキャラの描写や思考にいまいち信憑性がない。
さらに今回は中也が「私」として一人称で物語を見ているので、これは江南に今までのような"探偵視点"がないと見てもいいかもしれない。そうなると今までのメインキャラとしては考えにくいが犯人とまではいかないまでもそれに準ずる何らかの形で事件に関与するという可能性も出てくるので常連キャラだからと安心はできない。
<消えた江南のポケットの中身は?>
江南の描写に関しては”財布や身分証はどこへ行った?”という疑問もある。たしかに車から持ち出していたのにそれがない。普通に落としただけなのか、発見者の使用人の子供が抜き取ったのか、または冒険に出た子供が江南の車の近くで遺体を発見しているので劇中で描かれていない場面で江南とその遺体の主の間で何かが起こりそこで紛失したのか、そうなると江南が人形館のような形で犯人ということも。可能性は低いだろうけど。
<行き止まりで姿を消した謎の存在>
"謎の存在が中也の前に現れ、行き止まりの壁で消えたトリックは?"、一人称を利用しての叙述トリックで中也の真っ赤な嘘という可能性もあるが館の構図を見ると奥に空間があるのでいつもの中村青司のからくりと見ておけば良い気がする。
誰が何のためにやったかという疑問があるが、誰かはまだ未知数として理由はこの館にはこの世ならざる者が潜んでいてなんでも起こり得るということを信じ込ませるため?今後密室殺人などが起こった時に自然に悪魔などのファンタジーな犯人を連想させることが目的?
<なぜ"暗黒"館なのか?>
暗黒館であることになんの意味があるのか。光を入れない館、なんとなく吸血鬼や魔女のような存在も連想されるけど、ダリアの日というものがある程この家でダリアの存在が大きいようなので初代当主が溺愛した妻ダリアが紫外線に弱い病気の持ち主だったからとかかな?しかしそれが今回事件にどう絡んでくるのか、また塔=牢獄という情報も気になる。
他にもあの地震は自然に起こっているものなのかなど疑い出せばきりがないけどとりあえずまた少し読み進めることに。記憶喪失になった江南の運命は?
☆第二回更新 (p316 第二部 九章 ボートの事故と柳士郎登場まで)
ようやく上巻半分くらいまで読み進んだけどまだまだ序章。ようやく登場してきた柳士郎は"この館に警察を踏み込ませたくない思惑"があるように思えるが。館が監禁場所的な側面も持つということを踏まえても決して公表できない秘密、人を監禁しているもしくはそれにより殺害したなどという秘密がありそうだ。そして館の者は皆それを知っている?
前回考えた<行き止まりで姿を消した謎の存在>については予想通りではあるがやはり取るに足らないことで深く考える意味はなかったようで。
<ダリア(桜)の血筋をひく者は必ず何らかの病気を被る>
浦登家では外様からの婿養子の血筋はなんともないがダリアとその娘桜の血筋の者はほとんど何らかのが奇病にかかっている様子。特に曾孫世代は、玄児も子供の頃に監禁されたのはそれが関係あるのだろうし、全員がそのようでもあり、このあたりの病気の(?)遺伝のようなものが今作の核心に絡んできそうな部分。
<蛭山の負傷を見た江南の過剰な反応>
蛭山の負傷は普通に考えると地震の影響だろうが江南のあの反応、あれを見る限り江南は蛭山の負傷に関係があるかもしれない。劇中にそんな描写などなかったが財布とマッチなどを落とした場面も欠けているので、車の側の死体といい、江南が車を降りてから暗黒館にやってくるまでの間の描写についてはその通りに信用しない方がいいだろう。
<中也のぼやけた過去と中村青司というワードへの各反応>
ここが気になるところで、中也は中村青司もしくはその建築物と因縁がありそうなニュアンスを感じる。中也は過去に火事にあっているようでもあるので、十角館の島の屋敷と何か関係があるのではないかと。詳しくは覚えていないけどそこで亡くなった者の家族だとか青司の息子とか。いやしかし記憶は戻って身分も判明しているようなので流石にそれはないかな。
☆第三回更新 (p410 第二部終了まで)
いよいよダリアの宴も始まり盛り上がってきた。前回蛭山の負傷を見た江南の過剰な反応について考えたけどあれは病床の母親とリンクしていただけで特別な意味はなかったか。蛭山の事故については市郎の視点をそのまま信用できそう。妄想読み違いもいいところだしこの調子だと中也と中村も何も因縁がない感じかな。
江南のなくなった持ち物についてはやはりシンタが持ち去った可能性が濃厚のようで。あとは江南の失われた記憶が車の直ぐ近くにあった死体の部分とどう絡んでくるのか。
<ダリアの宴で出された料理とは?>
想像されるのは人間の血と肉・・・しかしそれでは無理やりに食べさせる意味がいまいちよく分からないしもっと大きな意味がありそう。中也に対してミステリーの話題で「これからも機会はいくらでもある」というよう意味深な事を相手が言っていたが、これは中也がこの館から離れるに離れられなくなったことを示しているのでは。
玄児と双子姉妹の様子などを見ると仲間に引きずりこもうというような感じもしたし、あの料理を食べたことで人魚の血のようにそういう存在になるとか(それではファンタジーだけど)、もしくは病気じみたものに感染するとか、なんだかそういう雰囲気を感じる。
それともそんなものは考えすぎであれは普通の食事で単に儀式と精神的な重苦しさだけだったのかな。それは今後の中也の様子を追ってみていけば分かりそうだけど。
今のところ浦登家は吸血鬼的な一族、そういう奇病に掛かった一族、というような超常的な雰囲気を感じさせるストーリー展開だけどそういうのは大抵フェイクや幻想だったりするので、これらの意味深な浦登家の謎の真実が気になるところ。
☆第四回更新 (p520 第十五章 蛭山の死と事情徴収まで)
<蛭山の死 犯人とトリックは? "なぜわざわざ殺したのか?">
犯人はまだ絞れないし誰でもあり得る。犯行に隠し通路を使ったというが果たして本当にそうなのだろうか?堂々と殺すわけでもなく特定されないように秘密の隠し通路まで使うような慎重な犯人が放っておいても死ぬような状態だった蛭山をわざわざ殺す理由が分からない。
しのぶが犯人、もしくは居間での証言について偽っている可能性もある。前者についてはあまりにも安易すぎてまずありえない答えだろうが。後者の場合は"シンタの犯行"ということならばシノブが庇う理由も意味のない殺人ということについても説明がつきそうではあるが。案外それっぽいかな?
<中也と江南のギミックは?>
この二人の内面描写、主に中也の方で物凄く気になる描写が多く、この二人の記憶喪失設定にはなにやら凄い仕掛けが隠されていそうとは感じるけど詳しくはぼやけてなかなか見えてこない。江南の顔に見覚えがあるという中也の描写の意味は?
そもそも劇中初めから人物が入れ替わっているとか、いやそれはさすがに妄想甚だしいだろうけど。しかし中也の青司への反応を見るとなんだか江南っぽいところがあるんだよな。とりあえず第二回で書いた青司との因縁関係くらいでないかとは思うけど。
<宴で中也が得た物と失った物>
あれで浦登一家の者と同じ体質になった(病気に感染した)ということかな?「死ねない」だとか「永遠の時間」、「館から離れられない」というフレーズが出てきていたけど中也もそういう存在になってしまったと。
死なないというわりには家系で死んでいる者もいるので、それは本当に永遠の命というわけではなく比喩的な表現なのかもしれない。また「館から離れられない」というが玄児は東京で生活していたくらいなのでダリアの日に補給に帰ってくれば暫くは持つ、しかしある一定期間しか離れられない、そういう依存性のある浦登一家独自の家族病のようなものに感染させられたのではないかと。
☆第五回更新 (上巻終わりまで)
<気になる内面描写の意味とこの物語の構造は?>
中也の内面描写を見るとなぜか"市朗のことを知っていて"、まさか知り合いということはないだろうし、江南を見た事があるというところも不審だったけどこれはどういう・・・まさかループものということはないよな。もしくは劇中の物語の中の世界や誰かの意識の世界だとか、この出来事を終えた後に見ている中也の夢というような構造とか?
推理小説でそういうのはあまりないであろうので違うだろうけど、とにかく気になる内面描写が多いけど出てくるたびにますます混乱させるものでなかなか焦点を絞れない。
<玄児は浦登一家の成功例?>
浦登一家の中でも玄児は"成功"と言う話が双子から出てきた。これはだからこそ玄児が東京で生活できているということと繋がるのだろう。成功者は一定期間この地から離れられる、そうでない者は暗黒館への強い依存から抜け出せない(位置的な問題なのか光が問題なのか)。また玄児が子供時代幽閉された理由もそのあたりにあるのだろう。
<望和殺害について>
まず怪しいのは征順か。うたた寝していたとはいうが隣の部屋に居てあの像が倒れる音を聞き漏らすこともありえなければ不審に思わないわけがない。殺害時刻は犯人が時計トリックを使い印象操作可能だったが果たしてそれは使ったのか。仮に征順が時間を弄って正面から部屋を脱出したのであれば隣部屋の格子を破壊する必要が無い。それを踏まえた上での撹乱かもしれないが。
ということで上巻終了。正直現段階では各謎も時折見え隠れする中也の心情の真意も予想がつかない。ただダリアの宴の意味などはなんとなく分かる、それがファンタジーなのかあくまで精神的なものにすぎないのか気になるところではあるが。
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