[推理小説] 暗黒館の殺人 (下)
- 2011/10/11
![]() | 暗黒館の殺人 (下) (講談社ノベルス) (2004/09/10) 綾辻 行人 商品詳細を見る |
前巻に引き続き解答編の下巻に。相当長い物語なのであまり考えないで読み進めてしまっているけど詳細な謎解き要素よりも物語要素の方が強い作品かもしれない。
☆第八回更新 (終わりまで)
☆第六回更新 (p244 第二十一章 玄児の話浦登家の過去まで)
<ダリアの伝説は宗教的な崇拝にすぎない?それとも事実?>
あの肉はダリアのものであった。これは薄々想像がついていたがその効果、玄遥を己の血で救ったという伝承も含めて不死の身体を得るという効果は本当なのだあろうか?実際に祝福を受けたものからも死人が多々出ていて正直なところ狂信的な崇拝としか思えないが。
玄児の復活にしても詳しいことが分からないので復活したなどとは信じ難いし、なんなら病気の清も救えるはずだろう。そう見るとやはり宗教的な思想にすぎないのかなと。しかし死んだ玄遥や卓蔵、それから惑いの檻についてはなにやら意味深な描写もあるのでまだファンタジー要素が入り込む余地もあるかもしれない。
<過去の事件の犯人と消失の真相は?>
不明。過去の玄児の話が事実というのであれば絵のない額縁に仕掛けがあって隠し扉でもあるのかもしれないが柳士郎がそれに気づかないなどありえるのか。あの額縁はおそらくダリアを前に立たせて愛でるために作ったものであると推測したが仕掛けはあるのか?
犯人もまったく分からない。玄児の記憶的には不死のダリアっぽくもあるけど死んでバラバラになったのではそれも不可能。ここはもう少し読み進めないと難しい。それから現在における殺人事件に関しても今のところ犯人像がなかなか浮かんでこない。
<中也の正体は?>
過去の伏線を詳しく辿りなおさないと考えとしてやや弱いけど、諸井静の息子の忠教、もしくは「浦登玄児」ではないかと思われる。()内の過去の描写と出来事と登場人物がこの館の過去のそれと最後の出火事件と繋がるのでその線がある。
中也は過去の記憶で母に「兄」というようなことを言われているので年上の玄児の方ではないかと。暗黒館での過去の事件について中也の心の中で記憶があるのも玄児だからということであれば納得できる。玄児は忠教の方でお互いに火事の際に記憶を失い入れ替わった。百足の怪我の輸血場面で血液型が同じというのもその伏線。
血液型が同じだからと人を間違えるなどちょっと無理があるか?しかし"昔から居た使用人はほとんど首にした"とも言うし他の家族も元々玄児の事を良く思っていなかったので聖痕を見れば盲目的に=玄児と結び付けてしまう可能性はある。その場合玄児はそれに気付いていて今回中也を呼んだということでいいのかな?
☆第七回更新 (p440 第二十五章 出題編終了・クライマックス手前まで)
<()描写の主と物語の構造は?>
これが相当しつこく描かれているもののどうしても掴めない。視点の主が中也的でもあり江南的でもある。物語開始前からこの二人が入れ替わっているなんてことも考えてみたけどそれはどう考えても不可能。ただ少なくとも()描写に江南しか知らない情報が多々入っていることは明白で中也というよりはどちらかというと江南であるとは感じる。
あの記憶喪失の江南ではない江南がメタ視点から物語を見ている感じというか、案外これは鹿谷の書いた推理小説内の話でありそれを江南が読んでいるというオチなのか?劇中の江南は登場人物の江南と言う感じで。しかしそれにしては江南の実体験が篭りすぎているし・・・よく分からん。
<過去の事件の犯人と消失の真相は?>
動機を考えると柳士郎かな。あの仕掛けも絶対に知っている人物だろうし。玄児が見た人影という部分がクリアできないけど・・・誰か使用人とグルになって複数犯であれば可能か。
<現在の事件の犯人は?>
市朗の顔合わせや事故車の側の死体的にまた他犯行時のアリバイ的に見ても江南が濃厚だけど動機がいまいち分からない。しかし江南が諸井静の息子の忠教というようなことを匂わせる点も多い(塔に自然に導かれたのも過去にこの館に居たということで納得できる)のでそのあたりで潜在的に動機はあったのか。隠し通路のトリックも忠教であれば使えるはず。
<ダリアの伝説は宗教的な崇拝にすぎない?それとも事実?>
完全に宗教。幻。具体的な証拠がいつまで経っても全く出てこない。玄児の復活の話はでっちあげか勘違いだろうし、玄遥の復活も嘘、もしくは本当かもしれないけど脳死。他の惑いというのも精神論にすぎない。流石にドラキュラが出てくる作品ではなかったか。
<推理まとめ>
・()内の描写の主はメタ視点的な江南
暗黒館の殺人という物語を読んでいるもしくは体験した出来事を未来から振り返っている?
記憶喪失の劇中江南と何かが合わない感じなんだけど、違和感とはそのあたりなのか?
・中也=玄児 玄児=忠教 二人の入れ替わり。というのも考えていたけど江南=忠教と見るとこれは破綻するか。中也・江南・忠教・玄児、この4人がけっこう複雑に入り組んでる感じはするんだけど、どうも決め手にかける。
・過去事件の犯人は柳士郎 消失は殺害後隠し扉でダリアの部屋に移動、ダリアの部屋から出てくると目撃された室内の人影については使用人との共犯もしくは玄児の勘違い
・現在事件の犯人は江南 トリックは特になし動機は不明(母のための復讐?)
・ダリアの血の力 浦登家の妄信
・惑いの檻から聞える声 構造上風がそう聞えるだけ
☆第八回更新 (終わりまで)
いやーまたやられてしまった。まさか記憶喪失の江南は江南でも別人であって観測している未来の江南が神の視点から物語を見続けているという構造だったとは。今回の江南の描写は歪で何かがある、犯人から除外できない、という小さな構図は捉えられていたけど二人の江南を使った未来と過去という大きな枠組みは予想がつかなかった。伏線は腐るほど張ってあったようだけど長い物語だからと些細な描写は気にしないで読み飛ばしてしまった。
各事件の犯人や玄児と忠教の入れ替わりなど部分的には当ったところもあるけど江南の分裂トリックと過去と未来の時間差トリック、それから中也の存在について全く解けなかったのでこれでは全体像がつかめるはずがない。ということで大いにやられてしまったけど推理小説はこの瞬間こそ一番面白く驚きの答えを与えてくれたこの作品も楽しめた。
三十三年後の館に居た医者というのは美鳥のことでいいのかな?長編シリーズの最後の最後で青司が「私」として登場するというのはにくい演出だ。これにて館シリーズ読破。
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