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【PCゲーム】 さくらの雲*スカアレットの恋 感想

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さくらの雲*スカアレットの恋
(きゃべつそふと 2020)

アメイジング・グレイス』・『もののあはれは彩の頃』を手掛けたライター冬茜トム氏による新作。ミステリー要素の詰め込まれた過去の両作は非常に楽しめたので期待していた作品。


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百年の恋よ、萌え咲かれー


ブラボー!おおブラボー!!
いやー面白かった!複雑に絡み合う謎・伏線回収・辻褄合わせ・ドンデン返しといった推理ものの醍醐味は本作も満載で、全編を通して次々に繰り出してくる仕掛けと明かされていく真相の数々にはいったいいくつ驚きの要素が入っているんだとその都度感嘆しながら楽しませてもらった。

そして推理ものとしての面白さもさることながら本作はストーリーの纏め方(締めくくり方)も大変良く、物語としても非常に綺麗で読み終わった時の余韻が素晴らしかった。幸せであり、切なくもあり…この100年前の世界で過ごした時間の出来事がグルグルと回って読み終えた後はなかなか眠れなかった。


そんな余韻をもたらしたのは、物語構成もそうだけど所長をはじめ各キャラクターたちが物語の中で余すところなく存在感を発揮して司との絆を紡いだところが大きかった。はじめる前はなんか今回モブっぽい立ち絵ありキャラがやたら多いな使い切れるのかなんて思ったものだけど捨てキャラなどはなく、終わってみれば成田さんに至るまでこんなに思い出が残るキャラになるとはと。

それから終盤司の背景が感情剥き出しで激白されたあの演出も物語の臨場感と深みを引き立てる上で非常に大きかった。今までの同ライターの作品では主人公の設定や背景や動機的なところが若干無味無臭気味というか物語の上で弱い部分だった印象もあるものの今作はそこの練り込みも十分だった。

探偵役と思われていた主人公の裏での行い、それを暴くのが探偵である所長という構図もにくい。所長はヒロインであり主人公でもあったような、そんな司と所長のダブル主人公的な関係性が物語の臨場感をもたらしたと感じるし、本人の魅力も発揮しながら主人公のキャラを最大限に引き出しもした所長というキャラクターの造形がこの物語最大の特徴で魅力であったとも思える。



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アメグレ・彩の頃のライターということで期待していたというのは勿論だけど、過去作が続けて当たっているしハードルは高くそろそろネタも切れて外れるかもなんて不安も実のところあったのが個人的な本音。

そして体験版の時点では気になる要素は多々あるもののそこまでの惹きつけではなく、本編が始まっても前二作と比べると若干スロースターター気味かななんて感じはしていた。


しかしメリッサ編に入ると一気に面白くなり、中盤以降で核心の謎がだんだん集約されていくという面白さもあったけど単純に舞台と展開も面白くそこだけで推理小説を一冊読んでいるみたいな充実感があった。

列車の事件はとにかく奇怪で考えが纏まらず、次に起こることや犠牲者も読めなければ最終的に犯人もまったく分からなくていざそれが判明した場面はやられた!となってしまった。

そこの犯人は雪葉であると予想してしまったのだけど、なぜならそれは外のルートで平然と殺人を犯すところを見ているからで、ヒロインである遠子ですらそれによって犯人枠から除外できなかった。そして真犯人はリーメイの死体発見状況などから違和感は覚えていたもののあの震災の激動の中でも正義を貫いて味方として駆け付けたイメージでつい枠から除外してしまっていた。

そのようにプレイヤー視点のメタな情報がノイズとなって推理を阻害する。別府の件もあったので移動時間の長さからしても目的地は大分のどこかと推測させられてしまったり、リーメイの正体も知っているが故にそちら方面で繋がりを考えてしまったり、そんな構造が普通の推理小説にはないゲームだからこその味と感じて面白かった。

そしてミステリートレインは事件が終わったかと思えば最後にはカヤノ関連でもう一捻りあって、そこも完全に予想外で意表を突かれ高揚感をもって最終編に突入する演出も凄かった。

余談ながら、このルートの奇想天外な事件の起こり方や個別ヒロインとバディを組んで解決していく構造は『もののあはれは彩の頃』に近いものを感じたのでこのルートを気に入ってまだそちらは未プレイという人がいたらやってみるといいかも。



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トリックや事件的な面白さが列車編ならば前述したように物語の面白さは全てが集約された所長編。これまでの謎が全て繋がっていく面白さ、加藤の正体とタイムトラベル関連の様々なロジック、そして司の100年の旅の終着。中でも特に印象に残ったのは司の真相を暴く所長の推理場面・別れ・ラストシーン。

特に所長による司の謎暴きはこの作者らしい特徴とでもいうか、初期から仕組まれていた大胆なトリックがあってそれは作品の中で一番印象に残った仕掛けだった。まさか序盤のあのシーンが…あの時はあまりに何気なくて気にも留めなかったので驚いた。

昭和、”平永”と読み上げられた瞬間あぁ…!と。司が元いた世界について薄っすらと疑問に思っていたこともあったけど、スカイタワーの存在がノイズになったり他の考えなければいけない謎が多すぎてすっかり忘れて流してしまって完全にやられるという。でもこのやられたというのがミステリーもので最高の瞬間だとも思う。この一連のシーンは演出含めて痺れた。


タイムワープ関連のロジックについては細かく見れば穴も多いのだろうとは思うけど、幸い個人的には詳しくないし気にならず、こういうのは作者が作者なりの理論を示してくれればそれでいいと思っているので、そういう観点からすると予想していた以上に理論的な説明をしてくれたなと納得できた。

最後まで分からなかったのは加藤がリーメイとの賭けで5発銃を撃ったという話のタネで、明かされなかったけどあれは単純に銃に細工をしてインチキしていたということなのかな?


ラストシーンは司が単独で未来に帰るのならそういう構図になるだろうなと予想していた王道ではあったけど、それがテンプレではなく王道と言えるのはそこまでの過程あってこそ。良い結末だった。

欲を言えば最後に司が開いたという二代目チェリィ探偵事務所で机の上に大正の仲間達から別れ際に受け取った各アイテムを並べて置いてあるみたいな一枚絵があればなお余韻のある締めになったとも思う。



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所長の造形が見事だった!キャラとして・ヒロインとして・探偵として・時に影の主人公として、この作品そのものと言ってもいいくらいの見事な中心人物。物語の締めはもちろん切なさの残る終わり方でもあるけど、あの結末で幸せな気持ちでもいられることはこの所長の優しさと器の大きさあってこそ。

探偵としてここぞというところで格好よく決めるところも良いけど、その調子の良すぎる変わり身の早さや立ち回りであったり金に弱くポンコツ気味なところなどがまた良く、それらが豊富な立ち絵表情に彩られていて日常シーンから常に楽しませてくれた。

特に印象に残って好きなのは「ハハッ」と笑顔で調子のいいことを言って胡麻化す様子、金に目がくらんで¥.¥になっている様子、プンプンという怒り顔など。


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体験版を見て遠子の謎は核心部に近く終盤に明かされるのかと思っていたけど意外にも一番手だった。そして序盤の二編は割とあっさり気味だったので遠子の株が本編を通して急上昇みたいなのはあまりなかったかもしれない。

表情と台詞は共通ルートでまりもを見せた時の目を輝かせたまあ…!という時のが一番好き。あとメリッサ編の所長の仮想推理の中で「うるさいです(わ)ね……」と成田さんをあっさり射殺してしまうシーンの強さがなんだか頭から離れない(笑)


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メリッサは体験版時点ではそんなに惹かれなかったけど本編でのルートの面白さと物語上での予想外の立ち回りにインパクトがあり思った以上に掴まえてきた。メリッサ編のラストで見せた仕掛けと演出は作品でも指折りの盛り上がり所だし良いヒロインだった。


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蓮ちゃんんんんんんんんんんんん!蓮ちゃんが可愛かった。ビジュアルも声も性格も好みで体験版時点から推していたヒロイン。CV如月たまさんは初めて聞く方だけどかわいい声だなーと。恋文の奥ゆかしさなど時代設定の生かされたレトロ浪漫な恋愛模様はヒロインで随一。

しかし蓮は全体を通しても出番と役割は少な目で個別編でも終盤はH以外ではそんなに絡んでないなという感じでもあったのでこれ全年齢版だったら存在感どうなるんだろうともちょっとだけ。

そんなこんなで蓮ちゃんはメインにしては地味枠ではあったけどHに関して謎の覚醒を遂げたのでまあそちらが本編だったということで。しかし「私に恋を、教えてくれますか?」という浪漫チックなシーンからどうしてああなったという感じではある(ノ∀`)

そういえばこれは見落としただけなのかもしれないけど蓮は公式PVで言っている台詞はあったか?あの台詞と絵描き設定からしてアメグレの某ルートみたいになると思っていたのだけど、一切そんなことなかった。

イベントスチルは遠子亭での着替え遭遇シーンのCGが好き。時代的な背景も強いキャラで洋服になった時も下着は…というのもあったと思うのでそのあたりの設定でもう少しみせてくれればなとも。



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メインヒロイン以外の声優ではアララギ役の野々宮小鞠さんがミステリアス・クール・悪戯な雰囲気のバランスの取り方が良く印象に残った。あと作品最大の敵役たる加藤大尉のCV熱波整さんも雰囲気あるいい声だった、微妙にというかかなり大塚さんっぽいのが印象的。



<好きなBGM3選>
『爛漫のおどり』
『かく咲きたらばいと恋ひやめも』
『迷宮止水』


前者二つは日常シーンBGM。この手のゲームでは割と戦闘系というかシリアスBGMが好きになり易い傾向にあるけどこの作品はこの二曲の平和な日常感と大正感が世界観の雰囲気を引き立てていたと印象が強い。

迷宮止水はレトロモダンな探偵っぽさが雰囲気とマッチしていて、またプレイヤーの思考する局面でよく流れていた印象もありプレイの手(クリック)を止めている時に一番聞いたBGMという気がする。

あとは謎めきと緊迫感のある曲調の『ゑだわたり』、加藤のテーマの印象が強い迫力のある『人魔天中殺』、微妙にバーロー風味のある(?)『掴み取る未来』が司の激白シーンなどで印象深い。





ということでサクレット完。ライターは期待とハードルが上がっていた中だったけどよくぞこれだけの作品に纏めてくれた。トリック含む面白さは彩頃アメグレサクレットとどれも違ったものがあるので一概には言えないけど、物語的な完成度ならこの作品が一番だった気がする。余韻溢れる良いストーリーだった。
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