【PCゲーム】 ジュエリー・ハーツ・アカデミア 感想
- 2022/12/08

ジュエリー・ハーツ・アカデミア
(きゃべつそふと 2022)
『アメイジング・グレイス』・『もののあはれは彩の頃』・『さくらの雲*スカアレットの恋』を手掛けたライター冬茜トム氏による新作。それらの作品は全て驚きの伏線トリックで魅せてくれたミステリー風作品でそのジャンルでは業界屈指の作家さん。今作にも期待がかかっていたけど果たして…

『輝け、僕らの意志ー』
おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
今作もとんでもないトリックを見せてくれた。アメグレ・さくレットのトリックも鮮烈だったけど驚きではこの作品の肝になっているトリックが一番で、同作者の作品の中では収まらず自分の中では今までに出会ってきたフィクション作品のトリックで一番驚愕したドンデン返しだったかもしれない。
それまでにもなにか台詞のニュアンスが気になるな程度には各シーンで感じてはいたけどその違和感の正体を頭の中で突き詰める前に根本のところから覆されたあの衝撃。あの場面に入った瞬間の「は?」っと頭の回転と時間が止まってしまったような感覚は忘れられない。
そのシーンで世界観のドンデン返しが起こったことでそれまでいくつか疑問符が付いていたソーマの言葉の全てが繋がってくる、またメデューサの行動理念も紐解けてプレイヤーの立場からしても物語を見る角度がまったく逆にもなってくるところが見事だった。
あのシーンを彩ったCG演出。あれもインパクト絶大で、この作品の肝になる最大の一撃という仰々しい背景とは裏腹にあの静かで不穏な絵面がごく自然な風に表されるという演出が凄く印象的だった。これは推理小説などにはない要素で商業のノベルゲームだからこそできる演出の味だったと思う。
上記した世界観の種明かしが最大の衝撃だったことは間違いないけどもう一つドンデン返しで見せ場を作った局面があって、それはマスターが駆け付けるシーン。あそこでも面白いドッキリを見せてくれて非常に盛り上がった。一度きりでは終わらず同じ作品でも二度三度と矢を放ってくるライターのエンタメ精神が素晴らしい。
それからギメルの意志の設定も面白かった。ギメルはその意志のあまりの強さの割に思考と行動が噛み合っていないように見えてなぜだと感じるシーンが多かったけどそういう裏があったとは。ジェムの設定を隅々まで生かした面白いギミックだった。

印象に残ったBGMは戦闘曲では『Sword Wind』『Lost Hope』。
SWは序盤からお馴染みの曲でちょっと平和な疾走感とでも言うかこのゲームの事前印象で強かったライトな陽の部分が表現されたような曲だったと思う。マスター登場のシーンもこの曲で最高に盛り上がった。
LHは絶望のテーマ。この曲が流れるとだいたい敵が強すぎてどうすんだよこれと思っていた記憶。最初の隕石落としシーンやキルスティンが問答無用で攻撃を繰り出している場面のイメージ。
ミステリー系な曲では『Missing Myth』『Reddish Mission』。
MMは不穏で謎を彩るイメージ。RMはさくらの雲*スカアレットの恋を連想する探偵的なイメージ。
『Ruined Empire』『Origin Races』などはストーリー上で緊迫感を演出していて印象的だった。

ヒロインはみんな良いキャラだったけどアリアンナが一番好み。原画のしらたま先生はやはりこういった青気味の銀髪っ娘のデザインに強いしCV月白まひるさんの活発演技も魅力的だった。
アリアンナで特に覚えている強かったシーンはメア救出戦が終わった後の「ふとももに触れられるとちょっとくすぐったい…」と言うところで恥じらいつつも嫌がってはいないところや、ソーマが暴走した時に笑顔で抱きかかえて迎えてくれたシーンなど。あとR-18な部分で覚醒するアメグレのユネっぽさw
ベルカさんは普段の戦闘狂なところも誰よりもブレない芯が通っていたところも良いキャラだった。美しさも劇中で言われているとおりに画面越しに感じさせて凄く安定して株を上げたキャラ。
メアはまさかあんな風にデレるとは思わなかった(笑) ケイトが登場して「このままじゃクラスの愛されポジションが危うい」と言っていたシーンなど好き。
ルビイは体験版時点だとあの襲撃を見てこれもうヒロインとしての株の回復は不可能だろうと思った。でもそこがこの作品のギミックの凄いところであの世界観のドンデン返しが起こるとそれまでのルビイの行動へのヘイトが消えて逆にルビイの立場から物事を見るようにさえなる。敵側に配置したヒロインが見事に機能していた。

そんなこんなでオリジナルな世界観とトリックの構成では最高に魅せてくれたゲームだったけど、それだけに最後の展開が痛かった。ギメルとの戦いで終わってメデューサメンバーのその後なども軽く描いてくれればそこで満足だったのにその後に入ったあの流れが個人的には腑に落ちず納得いかなかった。
もちろんあの流れがなければ石にされた人たちをはじめ世界の様々な問題も解決しないというのは分かるけど、単純にポッと出のラスボスはギメルよりも魅力がなかったしなによりそれを倒すためにとられた展開が好みじゃなかった。
それはラスボスを倒すためにアリアンナを数万年孤独に戦わせて、かつペガサス組のメンバーは一度その生涯を終えて記憶を有したまま戻ってきたという部分。アリアンナの設定は言葉で流すには重すぎるしましてや攻略ヒロインに背負わせたくなかった苦。ペガサス組の仲間も当たり前のように全員が時間を戻ってきたけどその後の生涯で得たものを簡単に切り捨てられるのかと、マークスに至っては絶対に家族だっていたろうに。
アリアンナを愛するソーマのみがそれを助けるために生涯探求を続けて執念でここに至りソーマ以外はここから時が経っていないという状況ならならまだ納得できたかもしれないけど、最後はアリアンナルート固定ではないのでソーマにそういう感情も絡んでいない。アリアンナに神にもなってほしくなかった。
そのあたりがどうしても引っかかってしまって物語の余韻があまり味わえなかった。最後の卒業式の場面はギメル戦で終わっていれば間違いなく感動していただろうけど、生まれ変わり(と言ってもいい)を経てしまった主要メンバー達というその構図がどうしても素直に感動させてくれなかった。
真ラスボスを描いたことでメデューサのその後が描かれなかったことも不満で、そっちに描写を割くくらいならギメルやキルスティンがその後変わっていく世界をどう見るのか見せてほしかった。
余談だけどこのゲームの個別ルート選択肢に関してはシーンスキップがないせいで回収が地獄だったしそういったシステム面にはかなり不満が残った。

不満点もそれなりに多く書いてしまったけど、全体的には良く、上で書いたようにドンデン返しでは今までの中でも最大級のものを見せて鮮烈なインパクトを与えてくれたし間違いなく楽しまてくれた大作だった。
なにより設定や屋台骨はとりあえず誰でも知っているテンプレートなものを使っておけばいいというような創作が多くなってきた近年において、独自で世界も設定も物語もトリックも練り込み一つの作品とした落とし込んだ作者の熱意は素晴らしく誇るべきものだと感じた。
物語やオチの付け方には好みもあって全員が100点というものは作れないけど、今後もこういったオリジナリティのある創作をしてくれるのならこの業界もまだまだ捨てたものではないと思えるような、そんな野心作を送り出してくれたライターおよび会社に拍手を送りたい。
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